うすっぺらい

バッタ

食べ物に囲まれて、うすっぺらいお笑い番組を見て、デジタル技術のおかげ身近になったホームシアターにつつまれて、脳はぺろんぺろんのバーチャルリアリティーを喜んでいる。40歳になっても50歳になっても、つるんつるんのむき卵のような顔を維持するために、せっせと注射針を顔面に突き立てる。未来世紀ブラジルや、多くの映画は醜悪にそのシーンを再現するが、「グローバリゼーションという妖精」はFUJIYAの店頭で輝くペコちゃん人形のようにますます生命の皺を消し去ろうとしている。

そんなゾンビの増殖に一番早く気づき、崩壊する日本人の人格に大きな警告を発していた人物と、2000年に偶然僕は出会うことが出来た。小器用にメディアに登場し、決して政治的な発言はせず、しっかりお金を稼ぐことから最も遠い人。いままでの人生で最も信頼する彼から今朝分厚い封筒が届いた。

彼の名は「室井尚」。いっしょに横浜でバッタを飛ばした同士!その彼が「バッタの顛末」を出版するために、第一稿をわら半紙にコピーして届けてくれた。今日は人生でも何回かしかない素晴らしい一日。一気に読み終えて、何度も感動して涙を流した。不思議だと思う。ほんとうに不思議だ。あんなに凄いことを僕がやっていたと思うとほんとうに不思議だ。あまりに激しい経験を敢えて避けるかのように当時は振舞っていた。そして、この本が出版されなければ僕はそのまま記憶を闇に突き落として、モルモットのように観覧車のなかで回転していたに違いない。

震災や戦争のような体験とアートを隔てる壁が見えなくなったあの事件!いちどでも横浜トリエンナーレでバッタを見た人はぜひこの本が出版されたら読んで欲しい。金メダルより大切なもの、アートよりも大切なものが何かわかるはず。